2018年3月30日に企業会計基委員会から、企業会計基準第29号「収益認識に関する会計基準」及び企業会計基準適用指針第30号「収益に関する会計基準の適用指針」が公表されました。
原則適用は2020年4月1日以後開始する連結会計年度および事業年度の期首からとなっていますが、これまでの収益認識とは一線を画す新基準となっているためとても注目度が高い基準です。
今回は、わかる会計シリーズとして、忙しいビジネスマンがザクっと概要をつかめるように解説していきたいと思います!
収益認識基準とは?
収益認識の基準はこれまで存在しなかった
そもそも、わが国には収益認識に関する包括的な基準は存在していませんでした。
これまでの収益認識
企業会計原則において「売上高は、実現主義の原則に従い、商品等の販売又は役務の給付によって実現したものに限る(企業会計原則 第二 損益計算書原則 三B)。」とされていました。
これがいわゆる「実現主義」による収益認識で、当該基準によって各社で収益認識がなされていました。
実現主義下の収益認識要件と新収益認識基準実現主義の下における収益認識の要件は「財貨の移転又は役務の提供の完了」とそれに対する「対価の成立」です。
これに対して、収益認識会計基準の下では、「履行義務の充足」に合わせて収益を認識するという考え方に変わりました。
新収益認識会計基準の適用手順新収益基準のもとでは、5つのステップに基づき収益を計上することになります。
この5つのステップを踏むことで、収益計上の「金額」と計上「時期」が決まります。
ココがポイント
収益認識に係る5つのステップ
収益認識については次に①~⑤の5つのステップを踏みます。
①顧客との契約の識別
②契約における履行義務の識別
③取引価格の算定
④履行義務への取引価格の配分
⑤履行義務の充足による収益の認識
収益認識5ステップの設例
■前提条件
・当期は✕1年4月1日から開始する事業年度である。
・(株)ひでともは、当期首にパソコンの販売と5年間の保守サービスの提供を一体で顧客と契約した。
・パソコンは当期首に引き渡し、その時点から5年間の保守サービスを提供する。
・契約書上のパソコンの対価と保守サービスの対価の合計金額は150,000円であった。
収益認識の5ステップの検討
ステップ1:顧客との契約を識別する。
パソコンの販売と保守サービスの提供が1つの契約であることが識別された。
ステップ2:契約における履行義務の識別
パソコンの販売と保守サービスの提供を別個の履行義務として識別し、それぞれを収益認識の単位とした。
ステップ3:取引価格の算定
パソコンの販売と保守サービスの提供と交換に(株)ひでともが得ると見込んでいる対価の金額(契約全体の取引価格)は150,000円であると判断した。
ステップ4:履行義務への取引価格の配分
パソコンおよび保守サービスの提供の対価150,000円を各履行義務(パソコン販売と保守サービスの提)に配分すると、パソコンの取引価格は100,000円であり、保守サービスの取引価格は50,000円とした。
ステップ5:履行義務の充足による収益の認識
履行義務の性質に基づき、パソコンの販売は一時点において履行義務を充足すると判断し、パソコンの引き渡し時に収益を認識する。また、保守サービスの提供は、一定の期間にわたり履行義務を充足すると判断し、一定の期間(5年)にわたって収益を認識するとした。
✕1年度に収益計上する額
パソコンの販売 | 100,000円 |
保守サービスの提供 | 50,000円 |
合計 | 150,000円 |
収益認識基準の考え方
収益認識会計基準は、IFRS第15号「顧客との契約から生じる収益」を踏襲する形で制定されています。このため、基本的な考え方として資産・負債アプローチが採用されています。
このように、資産・負債アプローチに基づくため、企業が顧客との間で契約を締結すると「顧客から対価を受け取る権利」と「顧客に財またサービスを提供する義務」が生じます。
したがって、契約締結時点では貸借対照表上は資産と負債が同額計上するため、純額でみると資産でも負債ではないことから収益は認識されません。
その後、会社が財またはサービスを提供する義務を履行したときに、その義務が消滅し、契約上の権利だけが残り、それに対応した収益が認識されます。
よって、契約開始時に収益を認識することはありえず、契約における履行義務を充足したときのみに収益の認識が行われるので、「履行義務の充足」が収益の認識の重要なポイントになるんです。
仕訳で考えると分かりやすいです。
借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
契約上の権利(資産) | ✕✕✕ | 契約上の義務(負債) | ✕✕✕ |
契約上の義務(負債) | ✕✕✕ | 収益 | ✕✕✕ |
IFRS第15号「顧客との契約から生じる収益」との関係
収益認識基準は、収益認識に関する包括的な会計基準の国際的な比較可能性を確保することが重要な論点であり、基本的にIFRS15号を踏襲しています。ただし、一部わが国の会計慣行に配慮した代替的な取り扱いを認めている点に注意が必要です。
これは、収益認識会計基準の適用指針92項から104項までの13項目に記載されている事項であり、具体的には次のようなケースが想定されています。
①契約変更(92項)
・重要性が乏しい場合の契約変更の取り扱い
②履行義務の識別(93項、94項)
・顧客との契約の観点で重要性が乏しい場合、約束した財又はサービスが履行義務であるかの評価をしないことができます。
・出荷及び配送活動に関する会計処理の選択について、顧客が商品等の支配を獲得した後に行う出荷・配送活動は履行義務として識別しないことができます。
③一定期間にわたり充足される履行義務(95項~97項)
・期間がごく短い工事契約については、一定期間にわたる履行義務の充足とせず、完全に履行義務を充足した時点で収益を認識することができます。
・受注制作のソフトウェアも、工事契約に準じて、同様の適用ができます。
・一航海の船舶が港を出てから、港に着くまでの期間が通常の期間である場合には、複数の顧客の貨物を積載する船舶の一航海を単一の履行義務としたうえで、当該期間にわたり収益を認識できます。
④一時点で充足される履行義務(98項)
・国内販売において、商品等の出荷時から顧客に支配が移転するまでの期間が通常の期間である場合には、出荷時から支配が顧客に移転するまでの間の一時点(例:出荷時や着荷時)に収益を認識することができます。
⑤履行義務の充足に係る進捗度(99項)
・履行義務の充足に係る進捗度を合理的に見積もることができない場合には、初期段階では収益を認識せず、進捗度を合理的に見積もることができる時点から収益を認識することができます。
⑥履行義務への取引価格の配分(100項)
履行義務の基礎となる財又はサービスの独立販売価格を直接観察できない場合で、当該財又はサービスが他の財又はサービスに付随的なものであり、重要性が乏しい場合には、独立販売価格の見積りに残余アプローチを使用できます。
⑦契約の結合、履行義務の識別および独立販売価格に基づく取引価格の配分(101項~103項)
・顧客との個々の契約が、当事者間で合意された取引の実態を反映する実質的な取引単位であり、かつ、当該契約の金額が、独立販売価格と著しく異ならない場合には、複数の契約を結合せず、個々の契約において定められている金額に従って収益を認識できます。
・工事契約について、当事者間で合意された実質的な取引の単位を反映するように複数の契約を結合した際の収益認識の時期及び金額と、当該複数の契約について会計基準第 27 項及び第 32 項の定めに基づく収益認識の時期及 び金額との差異に重要性が乏しいと場合には、当該複数の契約を結合し、単一 の履行義務として識別することができます。
・受注制作のソフトウェアも、工事契約に準じて、同様の適用ができます。
⑧その他の個別事項(104項)
・有償支給取引については、企業が支給品を買い戻す義務を負っていない場合には、企業は支給品の消滅を認識することになるものの、収益認識はしません。また、買い戻す義務を負っている場合は、支給品の消滅も、収益もどちらも認識しません。